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電車に乗ってすぐ、恵美はそう言って奏太の左肩に頭を乗せた。
女性と二人きりで出かけたことすら、ほとんどなかった。
それなのに、いきなりそんなふうにくっつかれたら、驚かないわけがなかった。
ただ、驚いて固まってしまったのは良かったのだと思う。結果として恵美が眠る邪魔にはならなかったのだから。
驚いて固まって、次にしたのは恵美から視線を外すことだった。奏太に寄りかかる恵美の姿をずっと見ていたら、本当にどうにかなりそうだった。
それで視線を車内に彷徨わせて、気が付いた。どの方向を向いても、一瞬他の乗客と目が合うことに。
見られている、そうわかった。それもあまりいい見られ方じゃない。もとから注目されることが好きではなかったからそう思っただけかもしれないけれど、嫉妬だとかそういう悪い感情で見られている気がして仕方なかった。
車内を見ているわけにもいかなくなって、奏太は俯いた。そうすれば当然、恵美の頭が目に入る。長い髪が頬に触れてくすぐったかった。
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