第二話 異変

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待ち合わせは、オーナーお勧めのイタリア料理のお店の最寄り駅。 オーナーは時間通りにやってきた。 顔を合わせた瞬間、ニコやかに挨拶をしながら、 彼の背後にどす黒い影を感じた。 私は敢えて気付かないふりをした。 経験上、そこに意識を合わせると体調を崩したり 悪夢で眠れなくなって少しづつ鬱状態になったりしがちだからだ。 そして、確実に運気は下がる。 これが、所謂「取り込まれる」「取り憑かれる」状態と言うのだろうか。 食事が始まるにつれて、 その影はドンドン濃くなり、大きくなっていく。 そして徐々に、大蛇の形へと変貌を遂げた。 言うなれば、黒い靄が大蛇の形を象った。そんなイメージだ。 勿論、オーナーは気付かない。 気にしないように気をつけるものの、やはり気になってしまう。 …ナニヨイイキニナッテ… 微かにそんな声が脳内に響いた。陰湿でハッキリしない声だ。 …ナニヨイイキニナッテ…ワタシノガスゴインダカラ… それは徐々に大きく激しくなり、異常な眠気を催してくる。 けれども、大事な打ち合わせだ。 必死で意識をオーナーとの話し合いに集中させた。 …カレハワタシノモノダ、テヲダスナ!!!… 突然、今までの声とは明らかに違う、ハッキリとした声が響く。 「!」 驚く間も無く、 同時にオーナーの携帯が鳴った。 「ちょっとゴメンね、妻からだ」 と電話に出た。 …声の主は、奥様。大蛇の声は、奥様!!!最初の声は店長!… 私は確信した。 それ以降は、その大蛇に意識を合わせぬように必死で、 大事な話はメモに取って凌いだ。 解散後はどっと疲れて、正直その場で寝てしまいたい、と感じる程だった。 その日から、黒い大蛇に全身巻きつかれ、 無数の骸骨が周りに群がり …こっちへ来い、お前だけ幸せなんてズルい!… と骸骨達がそう囁く。 そんな悪夢を見るようになった。 寝ても疲れる一方で、当然、当時付き合っていた彼とは喧嘩ばかり。 仕事でもケアレスミスが目立つ…。 このままではいけない、と思いつつ、 ドンドン自分が自分で無くなっていく感覚…。 食事会から三日後は、正直どうやって仕事に行って帰宅し、 どうやって寝て起きて通勤、食事、入浴…ほとんど記憶に無い。
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