うみからなる

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 汐音を見た次の日、おばあちゃんの葬儀を終えた。  十年も経っているのに相変わらず村の人々からは冷たい視線が向けられたが、僕は汐音本人に恨んでいないと告げられたことで、妙な自信がついていた。  村の人々のことをさほど気にせずに、家族の死を悲しむことができた。 「また、来なさいね」  少しだけ寂しそうな母に必ずまた来るからと約束をして、僕と夏帆は都会へと帰った。  ――村へ行ったあの日から三か月ほど経ち、僕の平穏な日常は夏帆の一言で壊された。  ただしそれは、良いほうに。 「赤ちゃんができたの」  その言葉を聞いた僕は一瞬驚いて、でもすぐに嬉しさが込み上げてきた。  僕も夏帆も、生まれてくる命をとても待ちわびた。  大変なこともあったし、夏帆は辛そうだったけれど、二人で全部乗り越えて夏帆の妊娠報告から八か月ほど経った頃。  やっと僕らの子どもは産まれてきた。  健康な女の子だった。  ……もしかしたら汐音は、僕らにこの子を授けてくれたのかもしれない。  少し都合がいい解釈かもしれないけれど、僕にはそう思えて仕方なかった。  僕らの子の名前は、夏帆が『渚』と名付けた。  湊も夏帆も海に関係する名前だから、と言っていた。  いい名前だと思う。  僕も夏帆も、渚にたくさん愛情を注いだ。  数年経って、庭で元気よく駆け回る渚を見て、子どもの成長は早いなぁ、なんて思う。  ついこの間まで赤ちゃんだと思っていたのに、今ではもう幼稚園生だ。  ……ただ一つだけ、気にかかることがある。  渚は、僕にも夏帆にもあまり似ていないのだ。  その代わりに、汐音の顔によく似ている。  考えすぎかもしれないけれど、渚を見ているとどうしても汐音のことを思い出す。  嫌ではない。  しかし少しだけ、複雑な気持ちだった。
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