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「渚、どうした? 怖い夢を見た? どこか痛い?」
渚は首を横に振りながら、歌うことを止めない。
「――渚!」
つい声を荒げると、渚は肩をビクリと震わせて歌うのを止めた。
起き上がってその場に縮こまる渚を抱きしめる。
「ごめんな、怒って。 どうして泣いてたのか、教えて?」
渚の頭を撫でながら、できる限り優しい声色を意識して言った。
「だって、パパもママも、わたしの名前を間違えるから……」
……名前を、間違える?
そんなはずはない。
渚は渚だ。
もしかして、寝ぼけているのだろうか。
「渚は、渚だろう?」
渚は首を小さく横に振って――そして。
「わたし、汐音だよ」
耳を疑った。
「今、なんて……」
「汐音」
間違いなく、ハッキリと、渚は僕のかつての幼馴染の名を口にした。
「ねえ、湊」
そう言う渚の表情はひどく大人びていて――いつも以上に汐音の姿と重なって見える。
「本当に、汐音……?」
嬉しいのか悲しいのか、怖いのか、自分でもわからなかった。
わからないのに、目から勝手に涙が溢れてくる。
「うん、わたし、帰ってきたよ」
渚――なのか汐音なのか、彼女は僕の頬を優しく撫でた。
そして次の瞬間、彼女は
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