うみからなる

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 その言い伝えを聞かされたのは、僕たちがまだ幼い子どもの頃だった。 「村の端の入り江には、行ってはいけないよ」  そう言われると余計に行きたくなるもので、渋るおばあちゃんにその理由をせがんだものだ。 「湊たちには難しいかもしれないけどねぇ」  そう前置きして、おばあちゃんは理由を語ってくれた。 「あの海はね、ずうっと昔、この辺りを護る神様の膿からできたんだ」 「……膿って、怪我をしたときの?」  おばあちゃんが「よく知っているねぇ」と頷くと、僕の隣で汐音は「気持ち悪い……」と呟いて苦い顔をした。 「神様の一部から成るあの海に、死人を流すと、生き返るんだよ」  ……死人、という言葉に僕は恐怖したけれど、汐音は臆せずに喜々として訊ねた。 「死んだ人とまた会えるってことでしょう?」 「でも、してはいけないんだ」  ――大人になった僕はもう、おばあちゃんがその先何を語ったか覚えていない。  してはいけない理由も聞いたはずだが、幼かった僕の頭では理解できなかったのを覚えている。  しかし今考えれば、死人を海に流すなんて衛生的ではないし、あの岩が多く入り組んだ入り江は近づくだけでも危険に思う。  だからそれらは禁忌とされ、言い伝えとして語り継がれてきたのだろう。  そういえば言い伝えを聞いた日の帰り道、汐音に言われたことはハッキリと覚えている。 「湊、もし私が死んだら私を海に流してよ」  僕は否定も肯定もしなかったと思う。  おばあちゃんに言われたのだからダメだという気持ち、汐音がいなくなるなんて嫌だという気持ちは、今の僕にもよくわかる。  しかし彼女が望んだからといって、僕のしたこと許されるべきではないのだ。  ……僕は罪を犯した。  とんでもなく、重い罪を――。
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