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汐音は、僕の幼馴染だった。
家が隣同士で、学校も遊びも、ずっと一緒。
小さな村だから子どもたちは皆仲がよかったが、僕らは特別そうだった。
汐音はとても歌が上手く、大人たちによく褒められていた。
僕らの村はとても小さかったけれど、汐音の歌声はきっと多くの人に届けてもその全員が聞き惚れたことだろう。
――しかしもう、それが叶うことはない。
僕が過ちを犯したのは、中学二年生の夏の夕方。
僕らにとって海は身近な存在で、その日も海で遊んでいた。
幼いころに聞いた言い伝えは僕らの心の奥底に溜まっていたから、決して村の端の入り江には近づかなかった。
けれど、その日は違っていた。
「ねえ、少しだけ、入り江を見てみようよ」
汐音がそう言ったのだ。
きっと見た目にはただの入り江だろう、と思っていたし、わざわざ危険なところに足を運ぶ必要はない。
「やめたほうがいいよ」
「怖いの? 神様がいるかもしれないよ」
その頃の僕のくだらないプライドと、ほんの僅かな好奇心のせいで、禁忌を破ることとなってしまった。
普段僕らが遊ぶ浜辺から入り江への近道である岩場は、ひどく危険だった。
ごつごつしていて、至るところにある隙間から時折伸びる波は今にも人を飲み込もうとしている。
そしてもう少しで入り江が見える、というときだった。
――僕の目の前から、汐音が消えた。
汐音の体は波に攫われて、岩場の隙間に落ち、打ち付けられた。
……即死だった、と、思う。
不幸中の幸いで、汐音の体は岩場に引っかかったため、大人たちを呼んで引き上げることができた。
その夜、どれだけ泣いたかは覚えていない。
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