うみからなる

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 懐中電灯の心もとない明かりで照らした海は、一言で言えば、怖い。  引いては返す波の音は穏やかだが、その闇へと僕も引きずり込まれてしまいそうに思えた。  汐音の体をそっと降ろす。 「気をつけて、帰ってこいよ……」  最後に一目見た汐音の顔は、やはり変わらず穏やかだった。  僕ば汐音を、海へと流した。  ――次の日になって、村中が騒ぎになっていた。  問題は汐音が消えたこと、お社に無断で入ったことの二つ。  ずっと泣き続ける汐音の両親にいたたまれなくなった僕は、大人たちに正直に打ち明けた。  少しだけ、正しいことをしたと思っていた。  だって僕がああしたことで本当に、汐音が帰ってくるかもしれないから。  けれど大人たちが僕を褒めるなんてことはなくて、それどころかひどく怒られた。  怒られ、罵倒され、暴力も振るわれそうになった。  愚かな僕はそこでようやく、自分の罪の重さに気が付いたのだった。  それから数日経ち、数週間経ち――僕は心のどこかで汐音が帰ってくるのを信じていたけれど、いつまで経ってもそれは叶わなかった。  汐音が帰りもしなければ、浜辺に打ち上げられるだろうと言われていた遺体もまだ発見されていない。  僕は汐音を海に流して以来、村の人たちから避けられていた。  老若男女問わず、僕を見れば離れていく日々。  原因が僕にあるとしても、僕はそんな生活に耐えられなかった。  汐音の帰りを待ち続け、一年と少し。  僕は村を出て、遠く離れた高校へと通うことを決めた。  家族は反対しなかった。  おばあちゃんはずっと、自分のことを責めていた。  僕が村を出るころには少し呆けてしまっていたけれど、僕を見ると決まって言う言葉があった。 「あんな言い伝えを教えて悪かったねぇ」  おばあちゃんは何も悪くない、そう伝えても、それはずっと心残りのようだった。  春になって、僕は逃げるように村を出た。  ……汐音が帰るのも待たず、罪を償うこともせずに。
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