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――そして僕は大人になって、十年ぶりに村へ帰ってきた。
昨晩、おばあちゃんが亡くなったという報せが入ったのだ。
「おかえりなさい」
母は優しく微笑みながら、僕と僕の妻を迎え入れてくれた。
それだけで、村の人たちから浴びせられる冷たい視線など気にしなくてもいいと思えた。
妻の夏帆が僕の両親に会うのは二度目だ。
一度目は、結婚する報告をしたとき。
結婚の報告なら一般的には僕が両親の元へと出向くべきなのだろうが、村の人たちに会いづらい僕を気遣って、それと村の外の観光目当てに、両親が僕と夏帆の元を訪ねてくれた。
お社に安置する前、離れで寝かされているおばあちゃんに会いに行った。
やはりその表情は、穏やかな寝顔のようだった。
つい、汐音もこんな表情をしていたことを思い出す。
……そして、巡りそうになる思い出を、心の奥へと押しやった。
おばあちゃんは死ぬときまで、僕と汐音に言い伝えを教えたことを後悔していただろうか。
ごめん、おばあちゃん、僕は孝行の一つもできなかった。
思わず涙が零れてきて、夏帆がそれを拭ってくれた。
落ち着いた頃、外に出る。
「星がとても綺麗なところね」
「……海も、綺麗だよ」
明日、太陽が昇ったら、夏帆にも見せてやろうと思う。
母の待つ母屋へと、帰ろうとしたときだった。
どこからか、とても懐かしく美しい、歌声が聴こえた。
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