うみからなる

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「これは……」  思わず狼狽する僕だったが、夏帆は何食わぬ顔で不思議そうに僕を見る。 「どうしたの?」 「何か聞こえない?」  夏帆は首を横に振った。  僕の、聞き間違いかもしれない――けれどそう断定するには、その歌声はあまりにもハッキリと聴こえた。 「ごめん、少し、潮風を浴びてくるよ」  僕は夏帆にそう告げて、海へと向かった。  歌声は確かに、海のほうから聞こえてくる。  浜辺に着いたが、誰かがいるような気配はない。  ……確かにこの辺りから聞こえるのに。  歌声がより大きく聞こえるほうへと、歩き続けた。  そうして、辿り着いたのは――あの、入り江だった。  絶えず聴こえ続ける歌声は、確かに汐音のものだった。  でも汐音がここにいるはずはない。  ここ、どころか汐音は、もうこの世にはいないのだ。  ……僕は少し、頭がおかしくなっているのかもしれない。  久しぶりに村へ帰り、おばあちゃんを亡くして、疲れているだけだ。  踵を返し、夏帆の元へ戻ろうとしたときだった。  ――僕の目の前に、汐音が現れた。 「しお、ね……?」  僕の目の前で、汐音は歌うのを止めて微笑む。  汐音の体は闇夜の中でもハッキリ見えていて不自然そのものだったが、不思議と怖くは感じなかった。  僕の頭はおかしくなんてなっていなかった。  本当に、汐音だった。 「僕を、恨んでる?」  僕が訊くと、汐音は何も言わずに首を小さく横に振った。
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