甘い蜜と午後3時

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「ここはある国の首相の別荘、向こうは航空会社の社長の別荘、その奥が大物女優一家の別荘」 彼の上げていく名前はVIPのものばかりだった。 裏路地のしょっぱいバーで飲むのだけが楽しみの俺がいるのは、完全に場違いだ。 思えば適当にあしらっちゃってるけど、こいつだってその別荘群に名前をつらねる大物なわけで。 ノリでここまで来ちゃったけど、さすがに変な汗をかく。 ちょっと緊張していると、急に横で笑われた。 「ハッハッ! リゾート地でなんて顔してるんだよハニー、リラックスしてくれよ!」 「リラックスったって……」 海外の超VIPの集う島に来て緊張しない一般市民がどこの世界にいるだろう。 「これから向かうのは俺たちの愛の巣なんだぜ、もっとリラックスしろよ~」 しかし奴がこんなわけわかんねぇこと言い出したもんだから、思いっきり眉間に皺を寄せてしまった。 「はぁ~?」 睨みつけるみたいな顔をしてたけど、奴には全然響いてない。 「ピッカピカにしたんだぜ~、最高級のハウスキープ頼んでたっぷり一カ月清掃してもらったんだ! 会えなかった分をたっぷり語り合おうと思ってな!」 「それが何で愛の、巣…なんだよ…」 口に出すのも恥ずかしい。 「そりゃあ待ち焦がれた相手を迎え入れるんだから、愛の巣に決まってるじゃねぇか!だろ?」 「どんだけ前向きなんだよ」 理由はよくわからないけど、俺がこいつにかなり惚れられてるっていうのは、よくわかった。
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