甘い蜜と午後3時

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もうすぐ着くと言われてから15分から20分くらい車を走らせたろうか。 この間、高い塀の家と海しか見ていない。どれだけ別荘が密集しているのか、それだけでも想像がついた。 (確かにこれじゃあ遠いな) あの空港のおっさんが言ってた通りだ。 それに、こんなに塀だらけで厳かな場所に、地元のバスで来られるわけがない。 車のシートにもだいぶ体が馴染んだ頃、着いたぜ!とご機嫌な声が弾んだ。 「ここが愛の巣だぜハニー、気に入ってくれるといいんだが」 目の前に現れたのは、真っ白い壁と鉄の門。 光を反射してかなり眩しい。神々しさすら感じる。だんだん目が慣れて来たけど。 気づくと車を降りた奴が、俺の方のドアを開けて、ニコニコしながらそっと手のひらを差し出してくる。 「……」 お姫様じゃねーんだから。 と思いながらも、車高が高くて降りにくいから、そっと手を借りる。 改めて外装を見て驚いた。崖の上に建つ別荘は、すぐ下に青々とした海をたずさえ、弾くような白い壁が崖に沿って奥まで続いている。 壁の奥には、丸や四角のズドンとした煙突のような白い建物が七重八重と並んでおり、まるで。 「地中海みてぇだな」 呟くと、奴は大きな声で笑いながら手を握ってきた。 「そうなんだ、よくわかったな!サントリーニ島が好きで、再現したのさ」 「再現て」 やっぱり金持ちはやることが違う。俺なんか好きなものの再現なんて、某ロボットアニメのプラモデルくらいしかない。
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