甘い蜜と午後3時

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「だから、好きな部屋を使ってくれ。毎日違う部屋を使ってくれても構わない。ハウスキーピングは毎日入れるからな」 そして彼は得意げに笑った。 想像の斜め上をいく世界観に、完全に頭がついて行かない。 あれ、俺死んだ? ここ天国? いつものバーでバカ後輩と飲んでたのが、遠い昔のことみたいに感じる。 「たっぷり話そうぜ、いろんなことを。お前のことを知りたい。俺はあの日から、ずっとお前のことを探してたんだ。また出会えて嬉しいよ。来てくれて本当にありがとう、感謝する」 真面目なトーンの声を感じて、口を開いたまま彼の顔を見た。 ほんの少し視線を挙げた先。 慈しみの目というのだろうか、俺以外のものを何も見ていない状態の目で、じっと見つめられていた。 赤の他人にこんな目で見られたことはない。 歴代の彼女からも、見られたことはないかもしれない。 柄にもなくドキッとした。 「まぁ、とりあえず酒でも飲まないか?ビールもワインもウイスキーも、なんでも揃えておいたからな!」 けど、すぐに思っ切り頬骨の上がった笑顔になるから、その時はシリアスにもならずに終わった。 「ビールがあれば十分だよ」 ちょっと戸惑ったまま答えるけど、すぐにバカンスモードに戻った。 「ビールもいろんな国のビールを集めたからな!どこの国のビールが好みか、飲み比べてみてくれ」 「えー、もうマジ普通の缶ビールとかでいいし」 さっきドキッとしたのが悔しくて、駄々っ子みたいなことを言って抗ってみる。 我ながらバカみたいだ。 もうこの際、バカでもなんでもいいけど。
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