甘い蜜と午後3時

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簡単に、別荘内を案内してもらった。 うまく伝わるかどうかはわからないけど、俺の見たままはこうだ。 建物を一望できる入り口から、三又に外廊下がある。上、真ん中、下と三叉路になっていて、真ん中の通り以外は階段がついている。 どの道も最終的につながっており、どこを歩いてもどの道にも出られるようになっている。 上と真ん中の道沿いに、コテージみたいに独立した部屋が3つずつ建っていて、下の道沿いに、2つの部屋とトレーニングルーム、そしてプールがある。あとはキッチンとかバーカウンターとか。 一部屋が大体65平米、洞窟みたいな作りの部屋もあれば、中東みたいな雰囲気も部屋もある。そして、どの部屋にもテラスがついていて、海を一望できた。 「さぁどの部屋にする? どこでもお前の自由だ!」 目を輝かせながら訪ねてくる。俺の口はまたも開いたままだった。 「……なぁ、俺、生きてるか?」 「何言ってるんだ? 生きてるからここにいるんじゃないのか?」 「だって、こんなところにいるなんて、信じられねぇよ」 どの部屋もスイートルームみたい。 1泊ウン十万ウン百万もしそう。 絶対熟睡できない。ちょっと高いラブホテルに行っただけでも寝られないのに。 「謙虚だなぁ、さすが日本人だな、こんなところでも謙虚なんて」 「日本人関係ねぇと思うけど」 ただ貧乏性なだけ。 バカンスと意気込んで来たものの、想像以上の舞台を用意されて完全に頭が真っ白になった。 戸惑うままの俺の肩に手を置き、そのまま抱きしめてくる。 「頼みがある。今日だけでいいから、お前と同じ部屋に泊めてくれないか?」 ゴツい体に似つかわしくない、まったりとした声で言う。 俺はほんの少し驚いただけで、彼の言動を受け入れていた。
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