甘い蜜と午後3時

19/98
前へ
/98ページ
次へ
「年単位でいろんなSNSやサーバーを探ったんだが、お前の情報は1つも出てこなかった」 「だって俺、SNSとかやってねぇもん」 「そういうことなんだなと思ったよ、まさかこの時代にネットワークに繋がらない人間がいるとは思わなかったぜ」 「悪かったな、こんな近くにいるよ」 とはいえOSの製作に関わるような会社の社長にそこまで言わせるって、俺も現代社会の中にいるくせに忍者みたいだな。 「そんなときに、あの写真に出会ったんだ。偶然、写真アプリにピックアップされてたのがあの写真で、本当に運命を感じたよ」 ミュージカルを見てる気分だった。 空をつかむように手を伸ばしたり、何もないのに抱きしめるような仕草をしてくるっと回ってみたり。 大男が再会の気持ちを語る姿は、乙女チックで面白い。 「ちょうどバカンスに出るあたりっていうのもよかったよ。自宅は犬と猫がいて騒々しいから、こんなに静かにゆっくりはすごせないからな」 「犬と猫くらいならそんなにうるさくないだろ」 「それぞれ10匹以上いる」 「それはうるせぇな」 「世界中で保護してきたんだ。ほっとけなくてな。譲渡もやってるから、今はそのくらいしかいない。多いときであわせて500匹くらいいたかな。去勢してから渡すのが多かった」 「マジか、聖人かよあんた」 動物好きなんだな。そんなことも知らなかった。 軽い気持ちでここまで来たとはいえ、少しずつ、一つずつ、相手を知っていくとどんどん親近感が湧いてくる。 2人しかいないってのもミソなんだな、吊り橋効果だっけ?見事に罠に嵌められた。
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

811人が本棚に入れています
本棚に追加