甘い蜜と午後3時

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「それはいつ入れたんだ?」 俺の腕を見ながら言う。 「ああこれ?翻訳始める前辺りだったかな」 「一気に全部入れたのか?」 「そうだね」 「ふぅん、随分思い切ったことしたんだな」 「そうかもしれないね」 「なぜ入れたんだ?」 「うーん、ちょっと笑えない過去があったからかな」 昔のことを思い出すだけで億劫で、言葉を濁した。 「このデザインは気に入ってるし、今となってはいい思い出だけど」 「そうか。人生いろいろあるよな」 それ以上聞いてこない。感慨深そうに言う彼のグラスにビールを足す。そういうところが日本人ぽいって笑ってた。 「俺は今の仕事をする前に、宝石商で働いていたんだ。でも、どうもああいうチマチマした仕事は向いていなくてな、辞めたんだ」 この図体でブリリアンカットとかやってたんだろうかと思うと、確かに似合わない。笑える。 「多少パソコンに知識があったから、今の仕事を始めたんだが、人生どうなるかわかんねぇな、こんなことになるとは思ってなかった」 言いながら、ぐるりと周囲を見た。たしかに、この建物は彼の努力と成功の成果だ。 この成果の延長線上に、メールをしつこく送ってくる粘り強さがあるのだとしたら、なんだか納得する。 「今の仕事でこれだけやれたんなら、宝石商でも成功したんじゃない?」 そう聞くと、彼は大げさに首を横に振った。 「全然世界が違うんだ。今の仕事だから俺に合ってるようなもんさ」 「そうなんだ。俺と似てるな」 「まぁ、おかげで宝石の見立ては出来るから、友人や知人の宝石鑑定したり、頼まれれば簡単にジュエリー作ったりするぜ」 「へー、そりゃすげぇや」 「それが趣味みたいなもんさ。リングなんかはそいつの指を見れば大体ぴったりのサイズに作れるしな」 「マジかよ、いい趣味じゃん」
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