甘い蜜と午後3時

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その時はそれでおさまった。 彼も訝しがる様子はなくて幸いだったけど、この先どうなるかはわからない。 バカンスは始まったばかりだ。 「夕食はステーキにするからな!」 彼のテンションは高い。仲の良いシェフに、キッチンで調理してもらうそうだ。 そのキッチンというのも三つ星レストランみたいなシックなデザインで、鉄板の目の前にカウンター席があって、シェフに至ってはかなり丈のある帽子を被っているのだった。 「こいつはゲイ友達なんだ!フランスの五つ星レストランを数件掛け持ちしてる凄腕のシェフだぜ!」 シュッとしたイケメンなのに、ものっすごい茶目っ気のある笑顔を向けてくる。Hi!と言いながらウインクしてきた。 「はぁい」 こっちは、ぎこちなく笑うことしかできない。 「紹介するぜ、こいつは俺のハニーさ!日本人で通訳やってんだ!」 ざっくりと俺のことを紹介するが、ハニーはブレないらしい。 「可愛いじゃないのぉ、東洋人ってみんな可愛い顔してるから羨ましいわ!」 そしてシェフはオネェらしい。 「惚れんなよ、俺のなんだからな!」 思いっきり肩を抱き寄せられる。 「いつからお前のもんになったんだよ」 文句を言うが、俺の言うことなんか聞いちゃいない。 「バカ言わないでよ!アタシにもダーリンがいるんだから!浮気はしないわよ!」 文句言いながらも、その手際はさすが五つ星の掛け持ちというだけあって、目を見張るものがある。あっという間に鉄板の上の肉の塊をステーキに仕上げていく。これがまた、涙出そうなくらい美味い。
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