甘い蜜と午後3時

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シェフは俺の滞在中はずっと飯を作ってくれるそうだ。 最高のバカンスに五つ星シェフの飯つきなんて、本当にバチが当たるんじゃないだろうか。 「シェフもここ泊まるの?」 と聞いたら、ここの家主が 「いや、こいつは他に宿があるから」 と言った。 パッと聞いて理解できなくてシェフの顔を見ると「やぁだぁ~!」と声色を裏返した。 「あ、なるほど、そういうこと」 パートナーんチに泊まるわけですか。 聞けばシェフもバカンス中なんだそうだ。そのついでに飯作りに来てくれると。コック帽まで持参で。なんて贅沢な話だ。 どこの誰だかわからないけど、その分だと多分この辺のご近所さんチなんだろうな。 「だから俺とお前の2人きりだ!」 しまいに、何度目かのそのセリフである。 シェフがこいつの制御装置になってくれるかと思ったんだけど、飯を作りに来るだけとなると、本当にこいつとほぼ2人きりか。 「2人で熱い夜を過ごしてちょうだい!アタシもこれからいい夜過ごすわ!」 シェフは、明日の食事の下ごしらえまで終えると、意味深に笑って帰っていった。 「ったく、なんだよ熱い夜って」 苦虫噛み潰すみたいな顔をして見送る。 2人きりになった別荘内はプールサイドにまで暖色の間接照明が灯され、柔らかい空間に変貌を遂げていた。
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