甘い蜜と午後3時

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「慣らすって?」 意図が組めなくて首をかしげる。 彼は俺の手を見つめながら、手を握ってくる。 「荒療治かもしれないが、恐ろしくないということを、体に染み込ませる必要があるかもしれない」 「はぁ」 握手する体勢だったのを、くるりと手のひらを返して、俺の手の甲を上に向ける。 「嫌だったら、我慢しないで言ってくれ」 そのまま、俺の手の甲に唇を寄せる。 かと思いきや、彼が唇を落としたのは、手首の上だった。 「っ!」 体が大きく震える。 けれど、昨夜ほどではない。 「怖いか?」 すぐに尋ねられた。 「いや、そんなに……」 怖くない訳ではないけれど、耐えられないほどではない。 「なら、これで少しずつ慣らしたらどうだ? 俺が手首にキスをするから、それが大丈夫になれば、少しは克服できるかもしれない」 克服できれば、普段の生活にも困ることはないだろうし、とも言う。 「うん、まぁそうだよ、な」 いつまでもトラウマ抱えてるわけにはいかないし。 キスされた手首を撫でる。 とはいえ。 (そんな簡単にいくのかね) 訝しい気持ちの方が強かった。
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