甘い蜜と午後3時

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「うーん、そぉねぇ、直接イヤって言うしかないんじゃないかしら」 それでやめてくれる相手ではない。 「とはいえまぁ向こうもワケあってやってくれてるから、無下にも出来ないっていうか……」 「複雑ねぇ。まぁ喧嘩してるようじゃないからいいケド」 「うーん、まぁね」 喧嘩ではないけども。彼が一生懸命やってくれてるのがわかるから、余計に悪い気がしている。 考え込んでいて動きの止まっていたシェフの手が、また動き出した。 「そういえば、唇は愛情らしいわよ」 楽しげに呟きながら。 とっさに意味がわからなくて尋ね返すと、同じことは言わずに話を続けた。 「あとー、耳が誘惑で、首筋が執着、手の甲は尊敬だった気がする。あとは忘れちゃったわ、フフフッ」 「なんだか全然わかんないんだけど、何それ?」 突っ伏したままの体勢で顔を上げながら尋ねると、ウインクされた。 「キスの花言葉みたいなものよ。場所によって意味が違うの」 「キスの花言葉?」 そもそも花言葉というものすら知らないのに、キスのと言われても全然ピンとこない。 「もしかしたら手首にもキスの花言葉があるかもしれないわよ~、そういうの考えたら、少しは楽しくなるんじゃないかしら?」 シェフの笑顔は曇りなくピュアだ。 「花言葉ねぇ……」 カクテルをぐっと飲み干し、ため息を1つ。視線を外に向けると、プールサイドでパソコンを叩きながら電話をしている彼の姿が見える。 「もー、また仕事してんのね!バカンスの意味ないじゃないのー!」 シェフはなぜか、その姿にプリプリしていた。
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