甘い蜜と午後3時

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ひとっ風呂浴びて、朝食を食べて。 まるで魔法の絨毯でも敷くかのように、あっという間に車を出して、店に買い出しに出かける。 別荘群の片隅にあったスーパーは、見かけは普通なのに、中に入ると1つ1つが見たこともないとんでもない単価の商品で溢れていて目が眩んだ。 それに、海外の映画で見たことのある女性や、ニュースで見たことのある男性の姿もちらほら見かけて、ミーハー心が疼いてキョロキョロしてしまった。 「何が必要なんだ?」 ほとんど料理をしないという彼は、カートを押しながら俺にくっ付いてくる。 「強力粉と塩と、あとバターと」 普段使う材料を列挙していくものの、その通り単価が高いので手が出しにくい。 だってこの店、タバコなんか葉巻がごろっと売ってて、しかも1本平気で3千円とかするんだよ、ハイパーインフレかよって話じゃん。缶ビールみたいな安っぽいものなんか1つも置いてないし。俺の知ってるスーパーじゃない。 「強力粉~、塩~、バター~」 彼は躊躇いもなくカートに放り込んだけど。 レジに並ぶと、俺が財布を出すより先にブラックカードを出し、さっさと会計を済ませてしまった。 紙袋2つ分、彼が抱えて店を出る。手ぶらでいるのが申し訳なくて、1個持つって言ったんだけど「重い荷物を持たせるわけには行かない」と頑として聞かず、そのまま車まで戻ってしまった。 「重いわけねぇじゃん」 と不満を漏らすと 「レディに荷物を持たせるなんて、男のやることじゃないさ」 と言って笑う。 こいつゲイじゃなかったら、相当女にモテただろうに。
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