甘い蜜と午後3時

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別荘に着いたら、早々にパン作りの支度に取り掛かる。 とはいえただのパン作りだから、勇んで何かするわけではないけど、キッチンの勝手が違うながらも普段通りに支度するのを、彼は楽しそうにカウンター席で見つめていた。 「……あんま見んな、恥ずかしいから」 嗜めるように言ってみるけど、当然効果なし。 「あのニーサンパンが目の前で出来るのを見られるんだぜ、見ないわけないだろ!」 「何より、お前が料理する姿を見られるなんて!」 興奮しててどうしようもない。 もう好きにさせようと思って、適当に受け流した。 とりあえずコッペパン作ろうと思って、粉を混ぜて生地を練って発酵させて形を作る。 「発酵なんて、そんな簡単にできるのか?」 と不思議そうにしている彼に 「ここの電子レンジは発酵ボタン付いてるみたいだからすぐ出来るよ」 と言うとフーンと鼻で答えていた。家主がその機能を知らないとはもったいない。キッチン自体、そこら辺の店の厨房そのまま持ってきたみたいに設備揃ってるのに。 小一時間ほどでパンを作り上げると、焼きたてを目の前に彼の目が輝いた。 「しんじらんねぇ!マジかよ、売り物みたいだ!」 「大げさだよ、普通に作っただけだって」 「しかもこの形、あれだろ、ホットドッグのバンズだろ!」 「え? あー、そっか。そうなるのか」 そのつもりはなかったけど、確かにそう見えるね。
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