甘い蜜と午後3時

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10個作ったパンを、一気に7個食べて、彼はやっと満足そうな顔をした。 「よく食うねぇ」 ちょっと呆れた。目の前でフードファイト見て気分。 「絶品だ、さすが俺の専属シェフになる男だけある」 腹を撫でながら笑う。 「あのなぁ、いつからお前の専属シェフになったんだよ」 確かに再会のきっかけは、シェフを探していたとかいう触れ込みだったけど。 「え、違うのか?」 わざとらしく目を丸くしている。 「違うね。契約書書いてねぇし、そもそも許可してねぇし」 わざと突っぱねてみる。 「契約書なんか必要ないだろ、俺のそばでこうしてパン作ってくれたらいいんだから」 「何それ、プロポーズじゃあるまいし」 何の気なしに言ったのだが、目の前の男は一時停止ボタン押されたみたいに、ぴたりと動きを止めてしまった。 「……なんだよ」 あまりに動きが急に止まったから、ちょっと身構えてしまう。 「なら、きちんとプロポーズしたら、お前はずっと俺のそばにいてくれるのか?」 「はっ?」 話の流れに、ちょっと背筋がシャンとなる。
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