甘い蜜と午後3時

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ゆっくりと下ろされたのは波打ち際で、裸足の足の裏に柔らかくむず痒い砂の感触と波が触れる。 「どうぞ、プリンセス」 戯けて、手を広げてテーブルへ誘う。 「今度はプリンセスかよ」 もう言い返すのも面倒で、適当に言わせておいた。 誘われるがままに席に着く。ワインとグラスを挟んで、向かいの席に彼が座った。 足はずっと砂と波に触れたまま。海、夕日と1つになったような気分。 彼の背後には別荘がある。小高い場所にあり建物の全容が見える。ここから見ると、結構遠く感じた。 「乾杯しよう」 ワインを入れてくれる。色の濃い赤ワイン。フランスのものだそうだ。 「俺にも注がせて」 ワインの瓶を受け取り、彼のに注ぐ。 そのまま乾杯した。キン、と透き通った綺麗な音がする。 一口含むと、それだけでもっと心が穏やかになって、つい笑っちゃった。 「どうした? 口に合わないか?」 笑ったのまで気にかけてくる。 「逆だよ」 と言うと、ホッとした顔をしていた。 こんなところで飲むワインが、不味いわけないじゃん。
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