甘い蜜と午後3時

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「あんまり至れり尽くせりで、どうしたもんかなと思ってさ」 こんなサプライズされて、嬉しくない奴いないでしょ。しかも心を奪われてる相手にこんなことされたら。 「これが夢だったら、どうしようとか思っちゃって」 こんなに穏やかな気持ちになったこと、今まであっただろうか。自分の中にこんなに柔らかな気持ちあったことを、初めて知る。 テーブルに肘をついて微笑みかけると、彼も笑った。幸せそうに。 「夢じゃないさ。俺だって、夢だって言われたらショックだね」 静かにワインを飲む。多分この瞬間、この場所にあるすべての色の中で、一番濃い色をしている。 「いつか、ここでこうしてお前とワインを飲みたいと思っていたんだ」 グラスの中に残ったワインを、くるくると回した。 「それこそ、昔お前と出会ってから、今の今までずっと」 「えー? ホントかよ」 冗談言ってるんだろうと思いながら笑いながら言うのに、彼は穏やかな表情のままだった。 「ここにバカンスに来るたびに思っていた、お前以外の奴をここに連れて来ようと思ったことはないんだ。やっとパズルのピースが揃ったような気分さ、これも運命だったんだろうな」 「運命ねぇ」 「だから、夢だって言われたらショックが大きすぎるな。仕事辞めるかもしれない」 「それはまずいな、世界が混乱するわ」 彼はいつも、ストレートに想いを伝えて来る。俺みたいに、うじうじと悩んだりしない。 申し訳ないと思う反面、その性格が羨ましくもあった。
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