甘い蜜と午後3時

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「後は俺がナイトになるだけだな」 「ナイト?」 咄嗟に何のことかわからなくて、夜がどうしたんだろうと思った。 けれどすぐに違う方のナイトだと理解した。 「お前を泣かさないように、お前を守るナイトになるんだ」 まるで少年のような事を言っていた。 「何だそりゃ、泣いてねぇし」 忘れるわけがない。 あの夜ベッドで少し泣いたことを。 でも恥ずかしいから言わない。 「いや、泣いてただろ」 「泣いてねぇって。泣くわけねぇじゃん、いい大人の男がさ」 「忘れたのか? ほら、初日の夜、ベッドで」 しっかり覚えてやがった! 「あーーー聞こえないーーー」 無理矢理自分の耳を塞ぐと、何だそれ面白え!と真似してくる始末だった。 ナイトだか何だか知らないけど、彼の存在が俺のそばにあるだけで、かなり心強いだろう。 甘えていいんだろうか。 甘えたい気持ちとまだスッキリしない気持ちが反発していた。 「守るったって、アンタは海外で、俺は日本だろ、無理じゃん」 また突っぱねてみると、突き飛ばしたのにすぐに起き上がる瞬発力を見せる。 「俺の会社を日本に本部を移せばいい。そしてお前と暮らす。それなら可能だろう」 「はぁ~?」 面白いこと言うな。無理だろそんなの。 半笑いで受け取って、せいぜい楽しみにしてるよと返す。 「そしたらマジでお前と暮らしてやるわ」 上から目線で笑いながら言うと、俺に指をさしながら「その言葉、絶対忘れんなよ」と言うのだった。 彼とそういうやり取りするのも、本当に楽しいし心地いい。 突っぱねたって、やっぱり、気持ちに嘘ってつけないんだなぁ。
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