甘い蜜と午後3時

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「ほら、大丈夫だ」 戯けて笑う。 触れた唇の感触と、ふわりと漂う彼の優しく甘い香りが心地いい。 酒のせいだけじゃなく、体が熱くなる。 「あんただから、大丈夫なだけかもしれない」 ちょっと艶っぽい気持ちになって、試すようなことを言ってしまう。 じっと見つめると、向こうも見つめ返してきた。 「俺以外に触らせなきゃいい」 至って誠実そうな声だった。なんとなく、俺が少し興奮してきているのを察しているみたいだった。 恐怖心はなかった。手首のトラウマを克服した今、彼を拒絶するものは何もない。と思う。 拒否反応が出たって、彼なら絶対に受け止めてくれだろう。そう思えるほど、俺は彼という人間を信頼していた。 「触らせないよ」 ハッキリと答えると、一瞬だけ少し驚いたような顔をした。 「あんた以外に触らせたくない」 たたみかけるように言った。目をそらさずに、まっすぐに向かい合う。 彼が目をそらせた。 「参ったな」 本当に困惑したような言い方だった。 「そんな目で見つめられてそんなことを言われたら」 途端、グラスを柵の上に置いて、正面から俺を抱きしめてくる。 「我慢出来なくなる」 耳元で囁かれると、一気に身体中に熱がまわった。 俺も無理やりグラスを柵の上に置いて、彼の背中に腕を回す。 「もう大丈夫だと思う。あんたを受け入れられるよ」 自分でも信じられないくらい穏やかな声で、囁いていた。 「抱いて」 彼の喉がゴクリと鳴ったのを、間近に聞いた。
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