甘い蜜と午後3時

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「ダメそうだったら、適当にほっといてもらっていいから」 笑いながら言うと、そんなことしないと言い返される。 「また一から手首にキスしてやるさ」 期待通りの答えだった。 近い距離で少し見つめあってから、ゆっくりとキスを交わす。 軽いキスを何度も何度も。ちゅっ、ちゅっ、と弾ける音が心地いい。 体がもっと熱くなってくる。しがみつくように抱きつくと、彼は笑った。 「紅茶を飲んだせいじゃないか?」 「紅茶?」 俺の中ではまるでピントの合わない話題で、軽く首をかしげる。 知らないか、と彼は笑った。 「甘い匂いがしただろう、アレはイランイランの匂いだ」 「何それ、アロマオイルみたいの?」 「まぁ、アロマオイルにもあるし、香水にもあるし、食事の香りづけに取り入れることもある」 彼は本当に何でも知っている。 「イランイランの花は、東南アジアのある国じゃ、ベッドの上に散らすもんなのさ。新婚夫婦の初夜のベッドの上にな」 そういうと、いつになくいやらしくニヤリと笑った。 「初夜っ?」 その表情から、言わんとしていることがすぐにわかって、顔が熱くなった。 (シェフめ……) 要するに、催淫効果ってことだろう。 シェフがお茶目に笑う顔が目に浮かぶ。
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