甘い蜜と午後3時

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あの時やたらに食事の感想を聞いてきたのは、そのせいだったのか。 「ま、あいつなりの心遣いってことだろ」 「どうだかな」 彼は笑うけど、やり方がオシャレなんだか露骨なんだか。 まぁいい。それならそのせいにして、彼にうんと甘えてやる。 羞恥心や葛藤はどこに行ったのか、俺には彼しか見えなくなっていた。こんなに強烈に他人を想ったのは、どのくらいぶりだろう。初めてかもしれない。 それを自覚すると少し緊張して、同時にもっと触れてほしいと思った。 「石鹸の匂いがする」 首筋に顔を埋めて、おもいきり息を吸われる。 「もうシャワーは浴びた。あと寝るつもりだったから」 「そうか、それなら好都合だな」 俺の服の裾から手を入れ、背中を撫でてくる。 「じっくり味わわせてくれ、お前を」 本当に優しく、猫でも触るみたいに撫でてくる。 「こちらこそ」 くすぐったくて笑うと、彼はそのまま一気に俺を抱きかかえて、部屋の中に引っ込んだ。 柵に並んで置かれたグラスは、三日月のわずかな光を受けて、俺たちを見る目のように光っていた。
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