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片隅
昔から隅っこが好きだった。
クラスの席替えでは最後尾窓側を占め、整列しろと言われれば一番後ろに並ぶ。独りでいたい、というわけではないと思う。ただ静寂を好む性質ではある。
それは大人になった今でも変わらない。大きなビルの寂れたフロアにぽつんと置かれたベンチだとか、ビルの谷間の小さな広場なんかでしばらく佇んでみたりする。吹く風がそこだけ凪いだような、そういう場所が好きなのだ。
毎日の移動には地下鉄を使っている。最寄りのS駅。ここには改札が二つあり、一つは駅正面、もう一つは駅裏方面で、改札を出た所から連絡通路がつないでいる。駅裏方面の改札は寂れているので、少しお気に入りの場所だ。わざわざ遠回りして、駅正面までだらだらと長い通路を歩くこともある。
ある金曜の夜の事だった。
少々帰りが遅くなってしまい、やっとのことで終電に飛び乗りガラガラの車両の一番端に腰を下ろした。背もたれに体を預け、電車の揺れに身を任せる。少し疲れていた。窓の外は真っ暗なトンネルの壁が流れていくだけ。それをただぼーっと眺めていた。
ふと、対面に猫が座っているのに気付いた。しっとりとした毛並みの真っ黒な黒猫。緑色をした目がじっとこちらを見つめている。なぜ電車に猫が、と思い立ち上がって手を伸ばそうとしたところで意識が覚醒し、猫の姿が消えた。
一瞬、うとうとしていたらしい。ため息を一つつくとすぐに到着のチャイムが鳴り、駅に止まった。アナウンスに促されホームに降りる。
なんだか静かだ。誰も下車しなかったのか、ホームには人っ子一人いない。偶然、と思ったがしかしなんだか妙な感じがする。人の気配がしないのだ。扉が閉まり、電車が発車する。乗客の姿は見えなかった。
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