21時

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21時

金曜のコーヒーチェーン店は、待ち合わせの時間潰しと見られる1人客のほかに、オフィスから端末ごと脱出してきたワーカーやアルコールなしで語り合いたい人で溢れ返る。 絶え間なく入れ替わる席が別次元のようだ。 賑やかしい店の中でひとり、窓の外の人の波を眺めている。 コート姿の人が家路や約束に向かう様子を目の端に流しながら、冷めかけたマグカップを抱えていた。 「さとうかよ?」 突然フルネームを呼ばれて、声のする方に顔を向けると、隣のカウンターに紙コップを置きながら見下ろしていたのは見知った顔だった。 「うわ、びっくりした」 「びっくりしたって言う割には棒読みじゃん。 こんな近くじゃ、会社の人間が来て当たり前でしょ」 同期の高橋くん。 高橋くんは、脱いだコートを背もたれに掛けて、そのまま隣の椅子に座った。 しばらくの物音と沈黙ののち、高橋くんの声が降ってくる。 「待ち合わせか何か?」 長い指がショートサイズの紙コップをより小さく見せた。 この手がペンを走らせるのを見るのが、割と好きだ。 「んー、こじらせ中?」 マグをトレイに乗せて、外気との気温差でも曇らないガラスの厚みについて考えを巡らせつつ、視線は半分窓の外を向けたまま答える。 街中が明るく見えるのは、街灯とネオンと、あとは行き交う人々の表情のせいか。 「何だそれ」 高橋くんは形のいい唇を弓型にして軽く笑い、そのまま紙コップを口にあて、コーヒーをすする。 置かれた紙コップの湯気から、淹れたてのコーヒーの香りがこぼれた。 冷めた私のマグからも、ほんの15分前には漂わせていたはずの香りだ。
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