地下鉄の話

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 4月の年度初めになると、公共交通機関を利用している人間ならわかると思うが、顔触れが少し変わる。    昨日までは同じ時刻に乗るメンバーはほとんど一緒だったのに、年度初めは人事異動や学校の新学期なんかで少しだけメンバーが変わる。  地下鉄も同じだ。  毎日同じ時刻に地下鉄に乗り、同じ車両に乗ると、だいたい同じような顔ぶれだ。  誰一人として名前は知らないが、顔だけは自然と覚えるし、座席の位置や立ち位置なんかも、1カ月もすれば固定してくる。  そうなってくると不思議なことに、ある一定の空気が流れだすのだ。  いつもの同じメンバーがそこにいるという安心感のような空気だ。  それはきっと、車両という狭い空間だからこそ生まれてくるものなのかもしれない。  逆に観光客のように、普段乗ってこないイレギュラーな存在がいると少し空気が変わる。  でも僕は、そんな変化も面白いとおもうけれど、大半の人はそう思わないみたいで、どこか苛立った空気になってしまうのだ。
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