地下鉄の話

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 僕が気になっているのは、毎日朝6時40分に一両目の一番後ろの扉から地下鉄に乗ってくる若い男性だ。  僕は彼が高校生の頃から知っている。  当時は学生服で、おそらくスポーツ系の部活に入っていたのだろう。  学生鞄以外に、いつもエナメルのスポーツバックを持って眠そうに乗ってきていた。   なぜ僕が彼を気にしていたのかっていうと、彼は2両目と1両目との連結部分にあえて立つという人物だったからだ。  気に入ってそこに乗っているというわけではなく、彼はあえて不安定な場所を選んで眠気を覚まそうとしていたようだった。(さすがに人が通るときはどいていたが)。  ある日はそんな場所にも関わらず、よほど眠たかったのだろう。  立ったまま眠っているような時もあったし、別の日はそこでスマホを真剣な表情で操作していた日もあったし、小さな参考書とにらめっこしている時期もあった。  ただ、大半はそこにただぼうっと立っているだけだった。
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