レッスン1

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★  最初の待ち合わせ場所は、地下鉄丸ノ内線の改札だった。午後1時きっかりに来た彼女は古乃実(このみ)と名乗った。  制服の彼女は上から下までどこから見ても今時の女子高生だったが、はつらつとした中にも僅かな憂いが見え隠れするのを俺は見逃さなかった。     「こんにちは。殺し屋さんですか?」    少女はそう言うと、俺に向かってどこか取ってつけたような笑顔を見せた。それに対して、俺は片方の眉を釣り上げた。    「その呼び方やめろ」    「じゃあシンちゃんでいい?アサシンのシン」    …やりにくい    この瞬間から、俺のへんてこな日々が始まった。    「学校は……」  「定時制だから」  「──。そういう事か」    「今日から一ヶ月間よろしくお願いします」  「わかってる。金は前金で払ったらしいな。しかしそんな大金どこから用意できたんだ?」     「親」  古乃実はにべもなく言った。「うちの親って、とんでもなくお金持ってるみたい。私には関係ないけど」    「そうか。でもそういうことは、あまり人前で言わないほうがいい」    「わかったわ。さてシンちゃんどこに行こっか!てかどこに連れてってくれるの?」    俺は頭を掻いた。そうか、レンタル彼氏とは女性の横をただ歩けばいいんじゃないんだな。俺がエスコートしなきゃならないのか。だとしたら、殺しよりも厄介な仕事になりそうだ。    「じゃあとりあえずカフェでも行くか?ここの駅ビルの最上階に、眺めのいい場所がある」    「嫌。カフェはいいけど、地下のショッピング街にあるカフェでいいわ」    俺は「なら、そうするか」と応えたが一抹の疑問が残った。せっかく東京湾まで見通せる見晴らしのいいカフェがあるのに、なぜ敢えてそんな場所を選ぶのか。    しかしながら俺と古乃実の数奇な交際はこうして始まってしまった。今日から一ヶ月の間に、果たしてどんな気持ちが芽生えるのだろう?
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