#あなたがかかる奇病

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【お願いだから】 医者は口許を歪めて言った。 「現代病だねぇ。まぁ、貴方に対して泣いてくれるような人がいたら、治る確率がかなり高いよ」 近頃の現代病もなかなかファンタジーになったものだ。 愛する人の涙で恋人への難聴が治るなんて。 いい大人を泣かせるなんてとてつもなく難題だ。 医者には、落ち着いて相槌を打って病院を出たが、頭が追い付いてないらしい。 状況に対する悩みや不安は簡単に出てくるのに、肝心な解決策は浮かんでこない。 そもそも、無視をされていると勘違いして怒った恋人相手に何をどうすればいいというのか。 言葉も聞こえないのに。 友人に教えてもらわなければ、相手が怒っていることも気づけなかった。 原因がわかってメールを送っても返事すらない。 いよいよ詰んでしまったのではなかろうか、人生そのものに。 一緒に暮らせたらいいのにと常々考えては踏み出す勇気も出ず、三年間ひきずってしまった代償が現状とはなかなか笑えない。 つらい仕事を頑張れたのも貯金を始めたのも全部彼女の為だったのにあーこれつらいなやべぇ冷静に回想とかしてる段じゃねぇわ、早く彼女に会おう。 もうどうにでもなるがいい。 と、あれこれ考えながら彼女の家のインターホンを鳴らした。 応答音は聞こえたが、反応がない。 うわーこれアカンやつやー早々に帰って酒飲もーそしてもう一回出直そうってできるかそれ……。 未だに応答はないし、諦めようとした矢先、勢いよく玄関が開いた。 「わぁー! 待ってたよ結婚しよー!」 出てきた彼女は既に泣き張らしていて、聞こえないはずの彼女の声が今ははっきりと聞こえた。 「あ、え、うん」 どさくさに紛れた衝撃的な台詞にうろたえながら答えると、彼女の涙の量が更に増えた。 「ああよかったー! あんたの声だけ聞こえないから、からかわれてんのかと思ったら変な病気にかかってたんだもんー!」 「え、お前も?」 「え?」 「え?」 「あんたも?」 「……うん」 *** 「彼氏の方は彼女に会う前から泣いてて、二人してアパートの玄関前で大泣きした、っていう少女漫画なんだけど」 「もっとちゃんと話練って」 「めっちゃ厳しい担当様やな、もう四度目だよ!」 「大雑把なのが悪い」 「もう勘弁してぇ~!」 深夜のファミレスに売れない漫画家の悲鳴がこだました。 2017.2.19
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