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「そうだ。これに乗っていれば、おまえの姿でもちょっと変わった
バイクスーツ姿として見咎められまい」
「……一応、擬態機能はあるのだが」
フェイスには人間に欺瞞する機能がある。人間社会に潜伏する専門連中と比べると
きわめて簡素なものだが、それでもその気になればそのあたりの道を
歩いてもバレはしない。
もっとも、それはあまりやらない方がいいだろう。戦闘用のフェイスに備えられた
擬態機能は、数種類のテンプレートを組合わせることしかできない。フェイスなら、
すぐに見つけてしまうおそれがある。
「おい、ちょっと待て……待ってください。いきなりそんな、
扱いづらそうなものをあてがうのは……」
「問題ない。乗れる」
「……え?」
火之夜が珍しくほうけたような声をだす。
「フェイスは、生まれたときにあらかじめさまざまな知識と技術を
インプットされている。機械操作もそうだ」
供与されたということで遠慮なく黒いバイク――I-I2にまたがり、
キックペダルを蹴ってエンジンをかける。
グオォォォォン! と重厚かつ甲高い響きをあげて、バイクがうなる。
「熟練者と張り合うには、相応の習熟が必要だが。
一般的な操縦なら、最初からできる」
周囲の人間を促して退かすと、軽く試乗してみる。
ほんの少し、加速させただけだが確かに早い。
低速からでも一気にスピードをあげられそうな気配が感じられる。
やや癖はあるものの、抑えられないほどでもなさそうだ。
「悪くないな」
「おーー! いいねえサマになってるじゃん!」
「ほう。初見でこいつを乗りこなすとは。――なかなかやるではないか」
なぜか得意げになる桜田と御厨。そんななか、火之夜だけは
ぽつねんと取り残された子犬みたいな表情をしていたのが、印象に残った。
・・・
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