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「鴇会田(ときえだ)ですよ」
やはり、その言葉は理解できなかった。
「トキエダ?」
「ええ。ごくたまに出ます」
幽霊とか、都市伝説とか。もしくは虻やクラゲの大量発生みたいな調子でその人は言う。
鴇会田。犯罪者とまた違う区分けにそんなものがいるのか。分からないものをまぁ言われたしそうなんだろう、ぐらいの大雑把な気持ちで納得しかけている時、視界の横から真っ赤なスポーツカーが突っ込んできて、私と話していたチャラい男の人の横にぴたりと止まった。
「おや」
私の方が息を呑んだ。その人のシャツに触れそうなくらいの寸前停止だったから。
本当に人間と車でビリヤードでもしているのか。しかし、撥ねられそうになった目の前の人にとってみればどうやら珍しい事でもないらしい。あぁ来たか、ぐらいの反応だった。
ちなみに、道端に転がっている例の色々を、その車は轢かなかった。
「先生」
右側のドアが開いて、中から若い男の人が飛び出してくる。
目が猫みたいに細い人だった。笑うと完全に瞑るんじゃないかというくらいの。髪の毛は青色で、向かって右側から左側に流している。だから右眼がほとんど分からない。横に並ぶと、さっきの男の人より頭一つ分くらい背が高かった。
その人は、穏やかな声で目の前の「先生」に言う。
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