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私の口が乗り移ったんじゃないかと、本気で思った。
名乗っていない。
「びっくりしましたか?しかし、残念ながら織り込み済みです。貴方の名前もこの事も、私にかかれば訳はない」
「人が悪い」
「貴方に言われたらいよいよ終わりですね、士郎。ともかく」
「先生」の目は、最初から最後まで涼やかだった。右耳のピアスが、前髪の隙間からきらりと光る。
「また、会いましょう。いや、すぐ会う事になる」
それは、挨拶のような予告。
社交辞令のような無慈悲。
すぐ会う事になる。私の名前を言い当て、そしてこの「通り魔」を織り込み済みだと言ったその人は、近い将来の再会を私に断言してきた。
「本当に人が悪い」
くくっと、士郎さんが言った台詞で最後だった。
赤いスポーツカーが発進する。私を残して。
いや、私達を残して。
「……警察」
散らばった諸々と、死体と、倒れた通り魔。
至極現実的な感性に立ち直ったのは、二人を乗せた車が走り去ってから数分後の事だった。
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