第一章 ~押し込み発車~

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何が悪いのか分からない。 何が良いのかも分からない。 ただ、不採用だった。不採用とも言わず、連絡無しで終わった企業もある。「今後の活躍をお祈りします」と、どこに向かっての期待なのか分からない一文を添えてきた企業もある。 とにかく、選ばれなかった。 つまり、この先の居場所がまだ私にはなかった。 人と争えない。人に勝てない。限られた椅子に座れない。認めて貰えない。少し前の時代に生まれていたら。敗者は死人となっていた時代に生まれていたら、私は飲まれ揉まれて消えているのかもしれない。 居場所を勝ち取る勇気が、私はどうやら他者より二段三段劣っているようだ。 「犬?」 犬が来た。 星夜さんの犬だということは、すぐに分かった。一度や二度じゃないからだ。 「待ってえええぇぇぇぇ!」 コンクリートの坂道を、転げてしまうんじゃないかというくらいの勢いで飼い主ーーー下寺星夜(しもでら・ほしよ)さんが走ってくる。 髪の毛は薄い緑色。 茶色や黒を基調としたモダンなドレススカート。 滅茶苦茶に若い外見。でも、私より年上だ。 良いとこのお嬢様か、奥様らしいと噂されている。私の大学での話だ。住んでいるところはよく分からないが、毎日この時間にこの白いポメラニアンを散歩させていて、そしてこの通りよく逃す。
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