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前世で何か悪いことしたんでしょうか、という問いを、私はかれこれ五十回は繰り返している。
突発的な不運に見舞われた時、人によっては因果を疑う。今の私、神有月彩女(かみありづき・あやめ)みたいな感じ。なんで私が、覚えがないぞ。こんな悪い事になるなんて、きっと昔何かとんでも無いことをやっていたに違いないと。
思い返す。
二月になっても就職先が決まっていない事。今日の面接でも手応えを得られなかった事。昨日牛乳が売り切れていた事。今朝、目の前を黒猫が横切った事。どれも最悪だったけど、でも今みたいに記憶のない前世を疑うことはしなかった。
「……はは」
最悪?いや違う。
本来、最悪は並び立たない。先ほど数え上げた不運。先ほど思い起こした不運。どれも及ばない。並外れて、頭一つどころか遥か上空まで垂直にすっ飛んで行ったような、そんな、他のものなど比べるに足らない、比べる事すらおこがましい。そんな不運に、夕刻、突如見舞われた。
端的に言うと、加害者と被害者に同時に出会った。面接からの帰り道、手応えのなさにしょげかえって、家までの道、電車が鉄橋の上を通過し、その下を車が通るみたいな、並んだ住宅街の角のような場所で。
元々、人通りは少ない。
車も滅多に走らない。
そんな場所で今、息をしているのは私と、もう一人。
被害者らしき人は死んでいる。
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