序章 ~人間ビリヤード~

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無表情に見つめて。 動き出す。 「っ」 当然だ。動かない方が不自然じゃないか。 生きているのだから。 そして、彼には武器がある。他人に見られては不味いものがその辺りに転がっている。何ならその身に浴びている。 動かないのが不自然だ。 殺さないのが不自然だ。 「!」 距離は五メートルくらい。 男はその距離を、驚くべき速さで詰めてきた。 「待っ」 繰り返す。男の右手には大振りなナイフ。 動きは俊敏。人離れしたスピードで、鞄以外に持ち合わせのない私に向かってくる。 鞄すら構えられない、刹那。 残酷にも目だけが男を捉えていて、ドライブレコーダーのように、自らの身に起こる“死亡事故“の様子を映さんとしていた。 死ぬという不幸。 殺されるという暫定事項。 男が。 私に肉薄して。 そして、真横に吹っ飛んだ。
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