序章 ~人間ビリヤード~

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「……えっ!?」 繰り返す。 男が、横に、吹っ飛んだ。 突如として。私の脇腹に刃物を突き立てようとした、その寸前。ダンプカーにでも跳ねられたかのように、男が空中できりきり舞った。 五十メートルは飛んだと思う。 男は最終的に、頭から肩、方から腰の順で着地。ぶつかって止まる壁がなかったから、高度を失うに合わせて地面へと投げ出された。 「危ない所でしたね」 緊迫した場面に、およそ似つかわしくない丁寧な口調。 私は男の着地を見届けて、そして視線を、再び先程の位置に戻した。 男が立っていた場所。 男が最終的に、私に最も接近した位置。 そこにはまるでビリヤードみたいに、男を跳ね飛ばした張本人が立っていた。 顔の両端を覆う長い前髪。 そこ以外は後ろに回し、ツンツンしたお洒落な黒髪オールバック。 マイクとギターでも持たせたら歌い出しそうな、そんなチャラそうな人物が、男を五十メートル吹っ飛ばして、その場所を代わりに陣取っていた。 「大丈夫ですか?」 ぱんぱんと両手をはたきながら、その人が私に尋ねてきた。
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