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「刑事さん、ですか?」
私は、私の常識の中で適切そうな単語を取り出した。
「違いますね」
その人は言って、少し微笑む。
飛ばないと思っていた距離まで人を飛ばすような人が、私の常識に収まるはずがない。そんな、すこし考えたらわかりそうな事を今更察して、ちょっと恥ずかしくなる。
顔でも赤くしたのだろうか。男の人は、私に気を使うように、さりげなくフォローするような言葉を付け加えた。
「まあ、似たようなものです。犯罪者に対して刑事がいる。私は、ああいうものの対策を仕事にしている」
そう言って、動く気配のない殺人鬼を親指で示す。
あの人、死んでいるのだろうか。
いやそれよりも。
「犯罪者、の筈ですけど」
私は率直な違和感を口にした。さっきのこの人の言葉に、ちょっと引っかかったんだ。
私はこの事象をさっき通り魔と片付けた。だからそれを行い、二人目に私を指名してきたあの男は犯罪者、の筈だ。しかし、この人は「ああいうもの」と、別物のように言い放っている。
「そう思いますか」
思うも何も、それ以外の何かを知らない。私はこくりと頷く。
その人は口端を今以上に上げると、特に感情のこもってなさそうな声で私に言った。
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