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その日は、夕刻から急な雨が降っていた。
七月の半ば、夏休みを目前に控えたこの時期の夕立は、局地的な雨としてはまさに記録的な程の豪雨となって、部活帰りの学生達を狼狽させた。
薄暗闇の中、学生服を着た少女が一人、声も無く涙を溢している。
少女は座したままに、部屋の高い位置にある窓代わりの空洞から差し込む僅かばかりの光を見上げ、そこから際限無く響いてくる耳障りな雨音に耳を傾けていた。
その太股の上には一冊の手帳らしき物が広げられ、片方の手にはシンプルなデザインのペンが強く握り締められている。
「……らざらん……」
唇から溢れるその掠れた声は、激しい雨音によって呆気無く掻き消される。
「……のよのほかの……おもいでに……」
ぽつり、ぽつりと言葉を紡ぐ度、少女の瞳からは透明の雫が溢れ、頬を伝う。
「……まひとたび……うこともがな……」
言い終えるが早いか、彼女はその華奢な体をぐらりと揺らし、崩れる様に埃だらけの床へと倒れ込んだ。
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