迷いしモノ

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「……ここはそんな埋もれた迷子たちがやってくる場所なんだ。作品とは、作った人の思いが大小あれど込められているものだ。作ったからには誰かに読まれたいという、熱い思いがね。読まれずに朽ち、消えるにはあまりに勿体ない。だから、せめて私が読みたいと思うのさ。描いた者たちの思いをしっかりと受け止めたい。ここはそんな場所なんだよ」 「本をそこまで愛せる方に出会えて幸せです! 」 美女はますます笑みを深くする。 「そうかい、そうかい。それはよかった。私は本が"大好物"だからね。美味しい作品に出会いたい」 そんな形容をする人は少なからずいる。 ……ドキッとした。いつの間にか、美女の顔が間近に迫っていたから。 「……ここの子たちは食べ尽くしてしまってね。そろそろあまぁいデザートを食べたい気分なんだ」 「よ、読み尽くしたんですか? すごい! 」 軽く見渡しても、かなりの数が見てとれる。 「造作もないことさ。そうそう、ここは持ち出し厳禁だが、"一冊だけ持ち帰る"ことが出来る本があるんだ」 すっと奈緒子の前に出された、羊皮紙の古めかしい本。 『Gregory Of Storia』 「グ、グレゴリー、オブストーリア? 」 「そう、グレゴリーオブストーリア」 「グレゴリーって色々な呼び方がありますけど、悪魔……の名前ですよね? 」 美女の笑みが怪しくなった気がする。 「そうだね、流石は読書家さんだ。だが、グレゴリーにも色々いてね。このグレゴリーは"美食家"なんだ。新しい料理を所望している」
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