エッセンスは一滴だけ

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◇◆◇◆◇◆◇◆ 「……さて、と」 少女が店を出ると、美女は本を開く。……少女に渡した本とそっくりな、いやおなじ本だ。 「おやおや、もう始まっていたじゃないか。ああこれは……予想している通りだね」 その本は真っ白だった。しかし、少しずつ文字が増えていく。本からは、立体のようなホログラフィーで映像が映し出されていた。 少女と少年、二方向からの目線ストーリーが描かれている。 「このままでも二人はいづれ結ばれる。だけど、現状が何年も続いてしまいそうだ。それは……"とても退屈"だ」 溜め息と共に何かを考えているようだ。 そんな彼女の背後から二つ、忍び寄る気配があった。 「……マリー、マルク」 二つの気配はビクッと立ち止まる。しかし。 「いやぁん☆ "ヴァーバラ"ぁ! 」 マリーと呼ばれた美少女が抱き着く。 「ず、ずるいよ! マリー! 」 出遅れたマルクと呼ばれた、マリーよりは少し大人びた美少年がおろおろしていた。 「今日も君たち、兄妹は元気だね」 二人に優しく微笑みかけた美女に、いつの間にか角が生えていた。衣服も少し妖艶に。 現れた二人も、背中からコウモリのような羽が出ている。 本を愛する美食、偏食家"ヴァーバラ・グレゴリー"とその使い魔"マリー・サキュバス"、"マルク・サキュバス"。 この三人は人間社会の隙間に、静かに暮らしている。"干渉"をしながら……。 それはまさに、一滴のエッセンス程度の。 「……そうだな。よし、マリー。君にしよう。頼んだよ」 「喜んで☆ 」 心底残念そうな兄を尻目に、マリーは暗闇に消えた。
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