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私は目覚めると海の中にいた。ただしこの海は、ほんものの海ではない。概念としての海だ。形而上的な海だ。
ここではあらゆる可能性が受け入れられる。あらゆる罪を海容することができる。瞬時に私はそう悟った。
私はこの海の中に観念的な存在として含まれている。肉体はなく、魂もない。ただ潮水の流れの中に、存在以前の存在としてたゆとっているだけだ。まるで水の中に溶ける酸素みたいに。
一面は透明感のある青に覆われている。この青も概念でしかないのだろう。だがしかし、今日のこの青はとても美しい。どこまでもどこまでも、永遠に果てることのない青。それは私に雲一つなく晴れ渡った日の青空を連想させた。
そんな場所を、様々な種類の生命が生きている。
魚がいる。
クラゲがいる。
鹿がいる。
麒麟がいる。
松の木がいる。
桜の木がいる。
命になる前の命がある。
彼らは自由だった。自由に泳ぎ、自由に休み、自由に生きている。各々の表情は安らいでいて、隠喩的な心臓は適度な鼓動を打つばかりだ。どの生命も安息と安寧に身を委ね、心から生を謳歌している。
それはきっとこの海のおかげだろう。
概念としての海。ここではなにもかもが許されるのだ。
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