50人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
私の身内は、もう同居している二人の孫だけだ。
生涯に二度、結婚した。しかし、二人の妻も、大勢いた子どもたちも、みんな若くして死んでしまった。
今の私には、二人の孫だけが宝だ。
とはいえ、大学生ともなると、なかなか喜ばせるのが難しい。昔はアニメの人形さえ買いあたえておけば喜んだもんだが。
そんなことを考えながら、本屋の引き戸をカラカラとあけた。なんだか、薄暗い。一瞬だが、何も見えなくなった。
ところが、一歩、足をふみいれた瞬間だ。
急に、あたりが、さんさんと明るくなった。陽光の明るさだ。まぶしいほどの青空が広がっていた。
な、なんじゃ……これは?
いつのまに青空市場に迷いこんだ?
じじいをからかってるのか?
いかに、よわい百とはいえ、まだまだ詐欺にひっかかりはせんぞ。
今時のバーチャルリアリティとかいうやつか?
しかし、本屋であることには違いない。
青空のただなかに、本だなが並び、奥にはカウンターごしに店主の姿が見える。
ないのは壁と床だけだ。
「いらっしゃい」と、店主は言った。
よく見ると、店主は孫の猛だ。
若いころの私に瓜二つの孫が、私が若いころに着ていた古い着物を着て、そこに、すわっていた。
瓜二つながら、男前なもんだ。感心する。
最初のコメントを投稿しよう!