羽ばたこう、今一度

2/12
50人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
私の身内は、もう同居している二人の孫だけだ。 生涯に二度、結婚した。しかし、二人の妻も、大勢いた子どもたちも、みんな若くして死んでしまった。 今の私には、二人の孫だけが宝だ。 とはいえ、大学生ともなると、なかなか喜ばせるのが難しい。昔はアニメの人形さえ買いあたえておけば喜んだもんだが。 そんなことを考えながら、本屋の引き戸をカラカラとあけた。なんだか、薄暗い。一瞬だが、何も見えなくなった。 ところが、一歩、足をふみいれた瞬間だ。 急に、あたりが、さんさんと明るくなった。陽光の明るさだ。まぶしいほどの青空が広がっていた。 な、なんじゃ……これは? いつのまに青空市場に迷いこんだ? じじいをからかってるのか? いかに、よわい百とはいえ、まだまだ詐欺にひっかかりはせんぞ。 今時のバーチャルリアリティとかいうやつか? しかし、本屋であることには違いない。 青空のただなかに、本だなが並び、奥にはカウンターごしに店主の姿が見える。 ないのは壁と床だけだ。 「いらっしゃい」と、店主は言った。 よく見ると、店主は孫の猛だ。 若いころの私に瓜二つの孫が、私が若いころに着ていた古い着物を着て、そこに、すわっていた。 瓜二つながら、男前なもんだ。感心する。     
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!