第一章 花嫁

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「ええ。今日は隼人(はやと)さまの婚礼の日ですもの。こっそりおさらいしていたの。わたしは巫女として舞いを奉納するのだから、とちったりしたら大変でしょう?」  そこで伊織は思い出したようにぽん、と手を打った。 「その隼人さまがどこにもいないんだ。さっきから探しているのだが、お姿がない。見かけなかったか?」  いいえ、と首を横に振りながら、桜花は驚いたように眼をまるくする。 「もうじき花嫁がお城に到着するというのに、隼人さまはいったいどうなさったの?」 「知りたいのはこちらの方だ。肝心の殿の姿が見えないので、城内は大騒ぎだ」  その時、何かに思い当たったように桜花が小さく声を上げた。 「ね、あの小屋は探してみた? 隼人さまが最近よくこもっていらっしゃる、例の場所よ」  桜花の言葉に、あの場所があったか、と伊織も弾んだ声を出す。  とにかく時間が迫っていた。二人は小走りで見当をつけた場所に急ぐ。  ほどなく城の庭の片隅に小さな建物が見えてきた。簡素な木造りの、掘っ立て小屋と呼んでもいいような代物だ。 「殿、こちらにおいでですか?」  そう、伊織が声をかけた瞬間だった。  中からばんっと弾けるような音がして、伊織はとっさに刀の柄に手をかけ、勢いよく戸を開けた。
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