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生命力にあふれる赤い花を眺めていた藤音は、ふうっと息をついた。
生きていてください、と隼人は言ったけれど。そんな気力さえ失われてしまった気がする。
「ねえ、如月」
「何でございましょう」
「もし死ぬとしても……病で死ぬのであれば、和睦は破れることはないわよね」
日頃は物事にあまり動じない如月だが、この時ばかりは団扇をあおぐ手を止め、思わず叫んでいた。
「何をおっしゃいます⁉ 縁起でもない!」
いいのよ、と藤音は力なく微笑する。
「本当なら、わたくしは婚礼の夜に死んでいたはずだった。如月たちにも内緒でこっそり懐剣を隠し持ち、柾の仇を討って自害するつもりでいたの」
初めて打ち明けられた話に如月は仰天した。まさに青天の霹靂である。
「でも、失敗した。殿は言ったわ。自分たちのうち、どちらが死んでも和睦は破綻して再び戦が起きると。だから生きろと。けれど、もう疲れてしまった……」
我が身の迂闊さを呪いながら、如月は寝床に横たわる藤音を凝視した。
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