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自分はどうしたいのか、自分でもよくわからない。
ただひとつわかったのは、いつまでも今のままではいられないということだ。
共に育ち、役目は違っても共に九条家に仕え、幼なじみとして三人で過ごしてきたけれど。
この先、いずれは和臣も伊織も妻を迎え、別々の生活を営んでいくだろう。
――伊織も?
伊織のかたわらに誰か、自分の知らない娘が寄り添っている。想像しただけで、ずきりと胸が痛み、やるせない想いが桜花を包みこむ。
こんな時、母さまが生きていてくれたら……。
桜花はそう考えずにはいられなかった。
もし母がそばにいてくれたら、女同士として細やかな心うちまで相談できただろうに。
でも所詮はかなわぬ願いだった。
どう生きるのか、桜花はひとり自分だけで決めなければならない。
夜が深まるにつれ、外は風が強くなっていく。
波音に混じり、ごうっと吹きすさぶ風の音は、まるで鬼の哭き声のように聞こえる。
なぜだろう。岩の中の鬼の声はとても恐ろしいのに、どこか哀切な響きがこめられている気がする。
眠れぬ夜。桜花はまんじりともせず、その音を耳にしていた。
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